不動産贈与の注意点。現金贈与と比較して

生前贈与は相続税の対策に効果的な方法ですが、を贈与するかによって効果は大きく異なります
「贈与できる資産は現金だけでは?」と思われる方も多いようですが、不動産や株式なども贈与できます。
中でも、不動産の贈与は相続税の節税効果が大きいと巷で謳われておりますが、これには注意が必要です。

不動産贈与後の賃貸収入は贈与を受けた人のもの

不動産の贈与については、一般的に、不動産登記の日をもってその事実が確定します。よって、登記の手続きをキッチリやっている方であれば、現金贈与と比べて、証拠が確実に残るので安心かもしれません。
また、賃貸不動産であれば、贈与した不動産の賃貸収入は、その不動産をもらい受けた人のものになります。このため、贈与した人はその分の賃貸収入について、相続財産を減らすことができます。また、贈与された人は、その賃貸収入を相続税の準備資金などに充てることもできます

現金よりも不動産の税法上の評価額は低い

贈与税は下記の計算式で計算します。

基礎控除:110万円
贈与税額=(贈与財産の課税価格-110万円) × 贈与税の税率-控除額

上の計算式から、贈与税の額は贈与財産の課税価格によって決まることが分かります。
贈与財産の課税価格は、現金については額面通りで評価されますが、不動産は実勢価格よりも低く評価されます。

賃貸用不動産を例にその評価方法をご紹介します。

  1. 建物の課税価格
    建物については時価ではなく、国税庁の定めた評価方法により、家屋の固定資産税の評価額で評価します。家屋の固定資産税評価額は、一般的に建築価額の60%~70%位の評価水準になることが多いようです。固定資産税評価額は、毎年送られてくる固定資産税の納税通知書についている課税明細書で確認できます。
    建物の課税価格=家屋の固定資産税評価額×(1-借家権割合*1×賃貸割合*2
    *1 借家権割合:大家さんから建物を借りて使用する権利の割合、通常30%
    *2 賃貸割合:入居率のこと、課税時期に賃貸されている各独立部分の床面積の合計÷家屋の各独立部分の床面積の合計で計算
  2. 土地の課税価格
    土地についても時価ではなく、国税庁の定めた評価方法により評価します。

    土地の課税価格=更地の評価額×(1-借地権割合*3×借家権割合×賃貸割合)
    *3 借地権割合:その土地を使用できる権利の割合、住宅地で50%~60%位、商業地で60%~90%位が一般的

  3. 簡単な計算例
    家屋の固定資産税評価額:6,000万円、更地の評価額:2億円
    借家権割合:30%、賃貸割合:100%、借地権割合:60%

    建物の課税価格=6,000万円×(1-30%×100%)=6,000万円×0.7=4,200万円
    土地の課税価格=2億円×(1-60%×30%×100%)=2億円×0.82=1億6,400万円

以上から、同じ額の贈与をするのであれば、現金よりも不動産を贈与した方が効果的なように思えますが、注意が必要です。

登録免許税や不動産取得税に注意

現金の贈与は登記の必要がないため、登記にかかる税金や司法書士への報酬が不要です。しかし、不動産の贈与にはこれらの費用がかかりますまた、前記のように不動産の贈与は特殊な計算を要するため、税理士に確定申告を依頼するケースがほとんどですので、税理士報酬も発生します。司法書士報酬は約5万円~、税理士報酬は約10万円~が目安です。

登記にかかる税金(贈与時)

登録免許税:固定資産税評価額×2%
不動産取得税:固定資産税評価額×土地1.5% or 住宅3%

例えば、土地を贈与した場合の費用は次のとおりです。

  1. 簡単な計算例
    土地の固定資産税評価額:3,000万円
    登録免許税:固定資産税評価額×2%、不動産取得税:固定資産税評価額×1.5%

    登録免許税:3,000万円×2%=60万円
    不動産取得税=3,000万円×1.5%=45万円

贈与時と比較して、相続時の費用のほうが安い

不動産を相続する際にかかる登録免許税や不動産取得税は贈与時に発生するものと比較して安いです。
相続登記にかかる登録免許税は0.4%で贈与時の税率の5分の1以下です。また、不動産取得税はかかりません。したがって、遺言書を作成して不動産の相続・遺贈をしたほうが、贈与と比べてこれらの税金を抑えることができます。

登記にかかる税金(相続時)

登録免許税:固定資産税評価額×0.4%
不動産取得税:なし

例えば、土地を相続した場合の費用は次のとおりです。

  1. 簡単な計算例
    土地の固定資産税評価額:3,000万円
    登録免許税:固定資産税評価額×0.4%、不動産取得税:なし

    登録免許税:3,000万円×0.4%=12万円
    不動産取得税:なし

自宅の生前贈与などに注意

相続税の特例に小規模宅地等の特例というものがあります。この特例は一定の要件のもと、亡くなった方が自宅や事業として使用していた土地の相続税評価額を80%又は50%に減額してくれる制度のことです。
小規模宅地等の特例は相続税の評価の特例であるため、土地の贈与時の評価には適用できない点に注意が必要です。

まとめ

現金以外に不動産なども贈与できます。ただし、不動産を贈与する際は登録免許税や不動産取得税などの諸費用が高額になったり、小規模宅地の特例といった相続税の特例を使えなくなるケースがあるため、慎重に検討する必要があります。